ディスカバー・ニッケイ

https://www.discovernikkei.org/ja/journal/2021/12/20/a-tribute/

戦士たちに捧ぐ歌 「静かな戦士たち」シリーズを終えて

トーシ・オカモト、2009年。写真:Densho

2002年、二世復員軍人会の理事をしていたトーシ・オカモトさんが北米報知オフィスに現れ、残り少ない「二世ベッツ」の生の声の記事を依頼された。リストは40人ほど。話したがらない方、認知性をわずらってしまった方を抜かし、年長者から2時間に限定してインタビューを始めた。主旨は、アメリカでも一般にはあまり知られていない442部隊とMIS(米軍諜報部員)の事実を英語でインタビューし、日本語で日本の国、日本人に届けることと、彼らの言いたかったことをそのまま記録として残すこと。

「トーシ、次はあなたの番よ。いつがいい?」とオカモトさんに電話した時、意外なことを言われた。「みきこ、僕はまだ準備ができていないんだよ」。どんな準備が必要なのか問うと、「いや、あんたには悪い評判があってね」と言う。「つまり、あんたがインタビューをするとだね、みんな死んでいくんだよ」。その頃13人中4人亡くなってしまった。

インタビューした元兵士が亡くなってしまうのは、高齢というのもさることながら自分の一生または半生を振り返り、終止符のようなものを打ってしまうからなのだろうか。そして私はその機会を彼らに与えてしまったのだろう。こうして、私のインタビューはMISの3人の方を最後に、終わってしまった。

アメリカの国歌を聞くたびに、私の頭にはある光景が浮かぶ。実際には行ったことも見たこともないドイツ国境近くのフランスのヴォージュ山脈の戦場、10人の第442連隊の二世兵士たちにインタビューした話を基に、頭の中に勝手に作り上げた私の世界である。

夜明け前の、辺りが茜色に染まってくるころ、丘の上のたなびくアメリカの国旗に見入っている、二世兵士の顔、顔、顔。不思議と若い兵士ではなく、インタビューした当時のおじさんたち。

それまでアメリカの国歌は「戦争の勝利」を称える歌だと思っていたが、実は「勇敢な兵士たち」を称える歌だったのだ。彼らに会った後では「星条旗」の持つ意味がもう少し深く胸にこたえる。 「当たって砕けろ!」と団結した勇敢な二世兵士。そして私もそこにいて、そんなみんなを眺めて、口ずさんでいる。

 

*本稿は、『北米報知』(2021年10月21日)からの転載です。

© 2021 Mikiko Amagai / The North American Post

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このシリーズについて

1942年2月、日本軍が真珠湾を攻撃した2ヶ月後、故ルーズベルト大統領の発令9066のもと、約12万人の日本人、日系人が収容所に送られた。その3分の2はアメリカ生まれの二世達。彼らの生き様は主に2つに分かれた。「アメリカに忠誠を誓いますか」の問いに「NO」と答えた「ノーノー・ボーイ」と、強制収容所から志願または徴兵され「442部隊(日系人のみで編成された部隊)」または「MIS(米国陸軍情報部)」でアメリカ軍へ貢献した若者たちだ。高齢になりようやく閉ざしていた口を開いた二世の戦士達。戦争を、体を張って通り抜けて来た彼らだからこそ平和を願う気持ちは大きい。その声を13回に分けてシリーズでお届けする。

*このシリーズは、2003年に当時はまだ健在だった二世退役軍人の方々から生の声をインタビューした記事として『北米報知』に掲載されたもので、2020年に当時の記事に編集を入れずにそのまま『北米報知』に再掲載されたものを転載したものです。

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執筆者について

東京都出身。2001年から2005年まで北米報知でジェネラルマネージャー兼編集長を務める。北米報知100周年記念号発刊。「静かな戦士たち」、「太平洋(うみ)を渡って」などの連載を執筆。シアトルの二世退役軍人のインタビューが、最も心に残っているという。昨年11月、44年のシアトル生活を終え、現在は東京在住。

(2021年1月 更新)

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