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第52回(その1) 英語落語で日本と海外をつなぐ ・セントルイス日本祭で公演の鹿鳴家英楽さんを追う

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英語落語に長年にわたって取り組んでいる鹿鳴家英楽(かなりや・えいらく)さん

英語で落語を演ずる「英語落語」は、いやまさまざまな国の人に親しまれている。落語という日本的なユーモアと語りの世界が国境を越えて通用する日系の文化のひとつといえるこの英語落語に長年にわたって取り組んでいる代表格に、鹿鳴家英楽(かなりや・えいらく、本名・須藤達也)さん(65)がいる。

英語の世界への興味からスタートして、日系アメリカ人の演劇などにも精通した英楽さんは、英語で落語を広める一般社団法人・英語落語協会(2020年設立)の代表理事をつとめる。同協会では、これまでにアメリカを中心にヨーロッパ、オセアニア、アジアの国々で公演をおこない、8月末から9月にかけて3日間は、アメリカ・ミズーリ州のセントルイスで開かれた「セントルイス日本祭」に主演者として招かれて英語落語を披露した。

英楽さんに、セントルイスでの公演をはじめ、これまでの活動や、海外の日系の人々やコミュニティーに落語がどう受け入れられているか、さらに、英楽さん自身の日系文化との関わりについて話をきいた。

アメリカ人の弟子が仲介役に

川井: 日本での公演のほか、これまで海外の各地で公演をされていますが、いつからどのような公演をしているのでしょうか。

セントルイス日本祭で落語を披露する英楽さん

英楽: アメリカでは、2015年の「ロサンゼルス二世ウイーク」での公演をはじめ、2016年に「シアトル桜祭」と「アリゾナ日本祭」で、2017年は「ニューヨーク公演」、「テキサス公演」、2018年は「アリゾナ日本祭」、2020年は「ロサンゼルス公演」、2023年は「カリフォルニア公演」、そして、2024年は「アリゾナ日本祭」と「セントルイス日本祭」での公演となります。今回がちょうど10回目のアメリカ公演になります。

アメリカでの日本文化を紹介する「日本祭」のなかへの参加としては、ロサンゼルスの二世ウィーク、シアトルの桜祭、アリゾナの日本祭、に次いで4ヵ所目になります。

アメリカ以外の公演については、落語英語協会のホームページに掲載してありますが、イギリス、オーストラリア、ニュージーランド、デンマーク、ラオス、ジョージア、カザフスタンなどで公演しています。

川井: 今回のセントルイスの日本祭では、どういうきっかけで公演することになったのでしょうか。

英楽: セントルイスにアメリカ人の弟子がいます。マーク・キューナーという白人男性で、高座名は、鹿鳴家中西(かなりや・ちゅうせい)。中西部出身なので中西です。実際のクラスには参加できないので、ビデオレッスンで私から英語落語を習っています。彼が、3年前から日本祭に英語落語で参加しており、今回、そろそろ師匠を呼ぼう、ということになったんです。それで中西が、日本祭の実行委員会の理事の一人、渡部眞理さんという方につないでくれました。その後、理事会で承認されて、招いていただくことになりました。

47回を数える伝統ある日本祭

川井:  アメリカの西海岸やニューヨークでの、日系の祭りやコミュニティーの活動については、話題になることはありますが、セントルイスの日本人コミュニティーはどのようなものでしょうか。

英楽:  セントルイスには、1973年に発足した日本人会、1967年発足の日米協会、1946年発足の日系アメリカ人市民同盟(JACL)があって、それぞれ、親睦を深めたり、会員を支援する活動などを行っています。日本語補習校もあり、日本人、外国人含めて200人ほどが日本語を学習しています。弟子の中西も、ここで日本語を勉強している一人です。

セントルイスは、長野県の諏訪市と姉妹都市の提携をしていて、今年でちょうど提携50周年なので、それを記念するイベントが両市で開かれています。

セントルイスの日本祭は1977年に始まり、今回で47回目。日本祭で一番古いのは、ロサンゼルスの二世ウィーク祭で、戦前の1934年に始まっているので、これにはさすがにかないませんが、シアトルの桜祭が1976年なのでそれとほぼ同じ時期です。アリゾナ祭は1985年なので、それより早く、結構長い歴史を持っています。

川井: 現地での「日本祭」は、かなり多様なイベントが行われ、盛り上がったようでしたが、いかがでしたか。英語落語のほかには、どのようなものがありましたか。

英楽: アメリカの日本祭は、たいてい和太鼓が花形です。セントルイスは諏訪市と提携しているので、御諏訪太鼓が披露されていました。セントルイスの日本祭では、これに加え、相撲が人気を得ています。今回日本から3人の力士が祭りに参加しましたが、1人は元関脇の逸ノ城で、今は、Ichiという名前で相撲をとっているようです。ほかの2人はカリフォルニア相撲協会(CSA)に所属している力士でした。CSAはアメリカの相撲ファンによって1998年に設立された団体です。

その他、茶道、華道、和菓子、和食、書道、飴細工、日舞、沖縄のエイサーの踊り、柔道、合気道、剣道、折り紙、盆栽、紙芝居、などのデモンストレーションやワークショップが開かれていました。

飴細工は、アメリカでは、Candymanと呼ばれています。アメリカでCandymanというと、シャン・イチヤナギさんが有名で、これまで何度も会っていますが、セントルイスの日本祭には、せいじさんという方が毎年いらしているようです。目隠しをして飴をつくっていたのには、びっくり。フロリダからいらしているようです。

会場の植物園には、鯉のぼりが多くみられ、これもセントルイスの日本祭ならではの光景でした。鯉のぼりが祭のシンボルになっているようです。あと、他の日本祭でも見られますが、たこ焼き、お好み焼き、焼きそば、たい焼き、団子、お寿司、緑茶アイス、かき氷など多くの模擬店が出ていて、どこも長蛇の列でした。

日本風サンドイッチ、なんていう変わったお店もありました。だいたい食べ物が10ドル、飲み物やアイスが5ドルくらいで販売されていました。アニメグッズのお店、1日、2日で消えるタトゥーを入れるお店などもありました。園内では、ポケモン探しのゲームも行われていました。

“ハンバーガー怖い”がお客にうける

 川井: 英語落語としては、英楽さんをはじめ、どのような人がどんな演目を披露したのでしょうか。また、お客はどのような人たちでしたか。日本人や日系の人たちもかなり来ていたのでしょうか。 

英楽: 1日、大会場と小会場での2公演。その後、小学校での公演。ですから全部で7公演やりました。1公演で2席かけました。かけた演目は、寿限無、死神、片棒、桃太郎、あくび指南、真田小僧、のっぺらぼう、ハンバーガー怖い、天狗裁きの9演目です。助演の中西は、動物園、粗忽長屋、看板のピン、お菊の皿、子ほめの5演目をかけ、彼も意欲を示しました。

1公演で、私が2席と色物(玉すだれやウクレレ演奏)。中西が1席の構成で、約1時間です。小会場の定員が50名ほど、大会場が300名ほどで、どの会もほぼ満席でした。お客さんは、ほとんど現地のアメリカ人で、日本人や日系人が特に多いという印象はありませんでした。

地元の小学校でウクレレ漫談を披露、喜ぶ子どもたち

川井: 小学校は,地元の公立校でしょうか。子どもたちにも同じように話したのでしょうか。反応はいかがでしたか。

英楽: 地元の公立小学校を訪ねて公演しましたが、そこでは私は落語の寿限無と、ウクレレ、玉すだれを披露し、中西は動物園を演じました。子どもたちも話の内容を理解して、よく笑っていました。                                                

川井: 英楽さんの披露した演目について、一つ例をあげて解説していただけますか。どのような話の展開で、お客はどういうところに反応して、笑うのでしょうか。

英楽: 海外では、定番として「寿限無(じゅげむ)」をかけます。寿限無の名前の部分はもちろん、そのまま演じます。繰り返しの面白さ、名前の音の面白さ、に皆反応してくれます。日本で日本語でやるより、受けるくらいです。

「まんじゅうこわい」のパロディである「ハンバーガーこわい」もよく受けます。この演目をかける場合は、現地で、どのハンバーガーショップが人気があるかを事前に調査しておきます。それを入れると、お客さんは喜んでくれます。

落語だけだと聴衆が疲れるので、玉すだれ、などの色物を私は途中でいれますが、今回、玉すだれで、セントルイスのシンボルである、ゲートウェイアーチをつくりました。これは毎回、拍手喝采。公演の前にゲートウェイアーチを訪れました。こうした事前の調査も非常に重要で、噺の味付けになります。落語はこうした即興性も一つの大きな魅力です。

川井: これまで行ったアメリカでの「日本祭」関係での公演と、今回のセントルイスでの「日本祭」での公演と、違った点はありますか。

英楽: セントルイスの日本祭は、ミズーリ植物園で行われるのですが、入場料をとります。入場料は一人18ドル。ですから、お客さんの質が高いように思います。3日間で5万人訪れるそうですから、財政基盤がしっかりしている。レセプションの時、シカゴの日本領事が、この辺りのことを説明しましたが、セントルイスでの日本祭は、アメリカの他の日本祭から注目されているとおっしゃっていました。

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鹿鳴家英楽(かなりや・えいらく)

本名・須藤達也。英語落語協会代表理事、キャナリー落語教室主宰。駒澤大学講師。1959年愛知県生まれ。81年上智大学外国語学部卒業、94年テンプル大学大学院卒業、教育学修士。84年落語立川流に参加。国連英語検定特A級などを取得。英語落語は、上方の桂枝雀に触発されて始める。落語のほか、色物としてウクレレを弾き、玉すだれを演じるほか、端唄、小唄、俗曲、都々逸、Jポップスなどを日英両語で歌う。

 

© 2024 Ryusuke Kawai

英語 エンターテインメント フェスティバル ユーモア 日本 ミズーリ州 落語 セントルイス ストーリーテリング アメリカ合衆国
このシリーズについて

日系ってなんだろう。日系にかかわる人物、歴史、書物、映画、音楽など「日系」をめぐるさまざまな話題を、「No-No Boy」の翻訳を手がけたノンフィクションライターの川井龍介が自らの日系とのかかわりを中心にとりあげる。

 

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執筆者について

ジャーナリスト、ノンフィクションライター。神奈川県出身。慶応大学法学部卒、毎日新聞記者を経て独立。著書に「大和コロニー フロリダに『日本』を残した男たち」(旬報社)などがある。日系アメリカ文学の金字塔「ノーノー・ボーイ」(同)を翻訳。「大和コロニー」の英語版「Yamato Colony」は、「the 2021 Harry T. and Harriette V. Moore Award for the best book on ethnic groups or social issues from the Florida Historical Society.」を受賞。

(2021年11月 更新)

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