ディスカバー・ニッケイ

https://www.discovernikkei.org/ja/journal/2023/1/30/tomomi-naruto/

第四十三話 朋美もナルトも夢を追う

日本人の父親と日系ブラジル人の母親を持つ朋美は19歳。

デカセギとして日本へ行った朋美の母親は、はじめは名古屋のパン屋さんで働いていた。そのとき近所の自転車修理店のオーナーに誘われパン屋さんを辞めて自転車修理店で働くようになった。その後すぐに2人は恋に落ち、一緒に暮らすようになった。それから、朋美が生まれて、生活は充実、安定していた。

4年前、とても残念なことに、朋美の父親が肺がんで亡くなってしまった。親子の生活は一変した。両親は正式に結婚していなかったので、自転車修理店は父親の兄夫婦が経営を引き継ぐことになり、朋美と母親は住まいをも失い、ブラジルに戻らざるを得なくなった。

「勝手に日本に行って、20歳も年上のマリード1でないマリードを持つアホがいるか」、「罰が当たったんだ」、「娘が可哀そう」などと、ブラジルへ戻った母親は家族に散々言われた。

そんな母親に幼なじみは、住まいを提供し、仕事を紹介した。

一方当時の朋美は、片言しかポルトガル語が話せず、そんな自分を恥ずかしく思うとともに、悔しい思いを感じていた。あちこち調べて、デカセギの子どもをサポートするポルトガル語教室に通い始めた。一生懸命勉強したので、その1年後にはブラジルの高校へ進学することができた。

学校では、クラスメートたちが朋美に漫画、アニメ、コスプレ、J-POP やK-POPのことを聞いてくるようになった。朋美は、流行りの歌は詳しくなかったが、いろいろ調べて、皆と上手く話せるようになった。おかげでとても楽しい学校生活を送ることができた。

ある日のこと、幼いころから絵を描くのが好きだった朋美は、漫画を教える学校を訪ねた。そこの先生は若いブラジル人だった。

「はじめまして。ナルトです」と、日本語で言った。

「それって本名ですか?信じられない!」と、日本語で答えた。

先生は笑顔で、ポルトガル語で話し続けた。

「本当に『ナルト』だったら良かったんだけど。本名はルイス・アフォンソ。忍者の漫画はもちろん、映画やドラマも忍者のことなんでも見てるくらい、忍者にハマってるんだ。だから『ナルト』ってみんなに呼んでもらってる」

ナルトはサンパウロ大学の日本文学部の卒業生で、夢は日本で暮らすことだった。日本では、仕事するだけではなく、日本の文化をもっと知り、現地のコミュニティと触れ合い、両国のために貢献したいと思っていた。

朋美はナルト先生の指導を受け、どんどん上達し、将来は漫画家になりたいと思うようになった。高校を卒業し、グラフィックデザインの大学に進んだ。

大学が夏休みになると、朋美は日本で2か月ほどアルバイトをすることにした。横浜市鶴見区にあるガラス工場での仕事だった。

「朋美ちゃん!元気?」

休憩時間に外に出ると、ナルトがそこに立っていた。

「ナルト先生!なんでここに?」

「いいや、ここでは先生ではないよ。今は留学生。冬休みに入ったので、ちょっとアルバイトをして、スキーへ行こうと思ってるんだ。朋美ちゃんはいつ着いたの?」と、いつもの笑顔で朋美を見つめた。

休憩が終わり、それぞれ仕事に戻ったが、ふたりとも心が弾んでいた。

これから、この話は、きっと素晴らしい花を咲かせる予感。 

注釈 1.夫

 

© 2023 Laura Honda-Hasegawa

このシリーズについて

1988年、デカセギのニュースを読んで思いつきました。「これは小説のよいテーマになるかも」。しかし、まさか自分自身がこの「デカセギ」の著者になるとは・・・

1990年、最初の小説が完成、ラスト・シーンで主人公のキミコが日本にデカセギへ。それから11年たち、短編小説の依頼があったとき、やはりデカセギのテーマを選びました。そして、2008年には私自身もデカセギの体験をして、いろいろな疑問を抱くようになりました。「デカセギって、何?」「デカセギの居場所は何処?」

デカセギはとても複雑な世界に居ると実感しました。

このシリーズを通して、そんな疑問を一緒に考えていければと思っています。

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執筆者について

1947年サンパウロ生まれ。2009年まで教育の分野に携わる。以後、執筆活動に専念。エッセイ、短編小説、小説などを日系人の視点から描く。

子どものころ、母親が話してくれた日本の童話、中学生のころ読んだ「少女クラブ」、小津監督の数々の映画を見て、日本文化への憧れを育んだ。

(2023年5月 更新)

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