ディスカバー・ニッケイ

https://www.discovernikkei.org/ja/journal/2023/11/3/epson/

第3回 省エネ・省資源にこだわるブラジル・エプソン社

Eco Tankタイプのエプソン製プリンターと専用インク

第3回目はブラジル・エプソン社の安江威社長に話を聞いた。世界的なテクノロジーリーダーであるエプソンは、ブラジルを戦略的市場として家庭・オフィス用プリンター、テキスタイルプリンター、ビデオプロジェクターに注力している。

SDGsにマッチする「省・小・精」の技術

バルエリの本社・工場

プリンター業界のリーダーとして世界的に知られるエプソングループは、日本のセイコーエプソン株式会社を中心に、全世界で年間約1兆円を売り上げる。

1975年に米国に販売拠点を開設した後、南米に進出し、ブラジルでは1982年にエプソン・ド・ブラジルとしてサンパウロを拠点に小型プリンター等を中心とした自社製品の販売を開始した。

製造に関しては、1997年に現在の本社と工場のあるサンパウロ州バルエリ市にエプソン・パウリスタを開設し、約50人の従業員でインクジェット・プリンターの生産を開始した。

その後、業務用プリンターの生産も開始し、2020年にエプソン・パウリスタはエプソン・ド・ブラジルに吸収合併され、現在は同社が販売と製造を担う。ブラジルでは従業員の約6割が女性となっている。

バルエリの本社・工場の施設内


バルエリの本社・工場の施設内

エプソンは、その核心となる「省・小・精」技術とデジタル技術を駆使し、人・モノ・情報をつなぐことで、持続可能な社会の共創と豊かな社会の実現に取り組む。

「省」とは無駄を省いて効率化し、消費エネルギーを抑制すること、「小」は小型化によって使用資源や生産プロセスなどをミニマムにしていくこと、そして「精」は精緻で精密なデバイスやプロセスをつくることだ。SDGsビジネスが標榜される以前から、省エネ、省資源のプリンター開発にこだわってきた。

日本人が持つ“もったいない”の精神とエプソンの強みである「省・小・精」の信念が、伯国だけでなく全世界的な傾向である地球環境保護には必要不可欠であり、人々の生活をより豊かにできると考えられる。


環境保護へのスマートな取り組み

エプソンは2021年に策定した長期ビジョン「Epson 25 Renewed」で、重要テーマに環境への取り組みを掲げた。今年2023年までに全世界の施設の電力を100%再生可能エネルギーでまかない、2050年までに排出二酸化炭素(CO2)総量をゼロよりも減少させる「カーボン・マイナス」と石油や金属の不使用を達成するというものだ。

そのために、環境負荷低減に貢献する製品・サービスの開発と顧客サポートにさらに集中する。

現在、ブラジルでは、耐用年数が経過した機器や消耗品を適切に処分することを目的として、その回収プログラムを実施している。約130カ所に受付があり、2020年には約41トンのエプソン製の機器や消耗品がリサイクルされた。

また、昨年はナショナルジオグラフィック社と共同で、北極圏の地下にある「永久凍土」の保全に関する科学研究の普及を目的とした「Turn Down The Heat」キャンペーンを発表した。

Eco Tankタイプのエプソン製プリンター

エプソン製プリンターのヒートフリー技術は、インク吐出時の加熱を不要とするもので、加熱が必要な他のプリンターに比べてCO2削減に有利な技術である。

現在、ブラジルで最も人気のエプソン製プリンターは環境への影響を考慮して開発されたEco Tankタイプで、従来のカートリッジタイプよりも印刷コストが安く、インク残量を気にしないで使用できる。

スポーツ・文化事業のサポートでもブランド認知

エプソンは2015年以降、バレーボールのブラジル代表のヘッドコーチでもあるジョゼ・ロベルト・ギマランエス監督が率いるバルエリ女子バレーボールチームのメインスポンサーを務め、資金不足で閉鎖に追い込まれそうになった同チームのパートナーとして、これまで400人以上のアスリートや50人以上のスタッフを支援してきた。

近年では、2022年に日本移民史料館9階の改装に、2台のインタラクティブビデオプロジェクターを寄贈した。他にも、火災の後、2021年に再オープンしたポルトガル語博物館へ、ポルトガル語の歴史の旅を楽しめる没入型のプロジェクターを50台寄贈した。

文化事業や社会的に脆弱な青少年の保護、新型コロナ対策への支援など、テクノロジーだけでなく、社会開発活動を通じても同社のブランド認知が高まることにつながっている。

ブラジル・エプソン社
正式名称:Epson do Brasil Ltda.
所在地:サンパウロ州バルエリ市、リオ・デ・ジャネイロ州レゼンデ市
設立年月:1982年会社設立、1997年バルエリに19000平米の工場開設
従業員数:816名
事業内容:家庭・オフィス用プリンター、商業・産業用プリンター製造、ビジュアルマーケット、ライフスタイルの分野でイノベーションを起こし、社会課題を解決する

 

*本稿は、『ブラジル日報』(2023年5月6日)からの転載です。

 

© 2023 Tomoko Oura

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このシリーズについて

パンデミックの厳しい環境の中でも事業を継続してきたブラジルの日系企業。コロナ禍も落ち着き始め、サステナビリティを目標とした新しい価値基準が求められる中、本連載では「ブラジルで活躍する日系企業の今」をご紹介する。ブラジル日本商工会議所協賛企画。『ブラジル日報』からの転載。

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執筆者について

1979年兵庫県生まれ、高校卒業まで神戸市で育つ。大学卒業後、2001年からブラジル・サンパウロ在住。フリーランスで現地の日本人向けマスコミを中心に取材・執筆活動ほか、編集業務に携わっている。

(2023年9月 更新)

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