その2>>
庭園のなかをコスプレのティーンエイジャーたちが・・・
敷地内には黒い瓦屋根の本館と最初にできた平屋の建物がある。本館には、木版や着物、陶器など日本の美術品が展示されているほか、茶室が設えられている。ユニークなのは、畳の間で茶の湯を行っているときに、お茶を点てるその模様を鑑賞できるようにと、開放された部屋の外に階段状の客席がつくられているところだ。
本館内には225人を収容できるシアターもあるし、カフェではお寿司をはじめ日本食が楽しめる。日本の工芸品や贈答品などが販売されるショップも、この場所にしてはなかなか充実している。
この建物とは別に、庭園の中程にある平屋の建物では二つの常設の展示がある。一つは「子供たちの目を通した日本」と題した、日本のいまの社会を知るためのもので、小学校の教室の様子や一般家庭のダイニングキッチンなどを紹介している。
もう一つは、ヤマト・コロニーの歴史が古い写真や新聞記事などとともに理解できるようになっているものだ。
午前中のうちに庭園内は来客がひっきりなしに行き交うほどになった。そのなかでとりわけ目を引いたのが、なにやら派手なコスチュームに身を包んだティーンエイジャーたちだった。その数は時間とともにどんどん増えてくる。
いったい何だろうと思っていると、この日のイベントの一つとして開かれる「コスプレ・コンテスト」に登場する若者たちだった。話には聞いていたが、いまや日本のアニメやマンガが外国の若者へ与える影響力は絶大なようで、私にはいったい彼らがどんなキャラクターに扮しているのかまったくわからなかったが、とにかく想像の世界から飛び出した色鮮やかで奇抜な姿が、しっとりとした日本庭園のなかを歩き回っているのだ。不似合いと言えばそれまでだが、その光景はおもしろいコントラストでもあった。
大きなテントを張った特設の会場でのコンテストが大いに盛り上がったのは言うまでもない。加えて会場ではアニメのグッズやおもちゃの日本刀などが束になって売られているのも不思議なことだった。
地元のある中学生に「日本に行ってみたい?」ときくと「もちろん!」と答えが返ってきた。
伝統的な日本の文化、芸能ももちろん注目を集めていた。とくにこうした祭りやイベントではよく行われる和太鼓は、音とパフォーマンスの力強さがアメリカ人に受けるのだろう、初めて見る人には新鮮に映ったようだった。
また、千栄子さんがリーダーとなって披露する野点(Tea Ceremony)にもたくさんの人だかりができた。着物に身を包んだ彼女がまず、茶の湯というものについて英語で説明をしてからお茶を点てる。そして、大きな傘の下で待つそのお弟子さんたちにふるまう一連の"儀式"を集まった人たちの前で淡々と繰り返した。青空の下で、静かにゆったりと進む動作に、観衆も静かに見入っていた。
敷地内には、日本的な食べ物や日本の古本なども売られるなど、出店も集まって、終日大盛況。西海岸のこうした日本をテーマにしたイベントに比べると、東洋人の姿が実に少ないのが印象的だった。
モリカミでは、このHATSUME FAIRのほかに、お正月には餅つきをしたり、お盆には精霊流しや花火を打ち上げるといった季節の催事を開いている。また、年間を通して、生け花教室や茶道教室を開いたり、料理や日本の庭作りを紹介する。日本語教室などといった教育的なプログラムも組み、地域の人に日本文化を広め、人々との交流を図っている。
週末の2日間にわたって行われた、今春のFAIRは天候にも恵まれ約1万人が訪れるほどのにぎわいだった。日本的なものがあまり目立たないこの地のアメリカ人が、日本的なものについてこれほど関心があることは少々驚きだった。しかし、それ以上に心に残ったのは、かつてのヤマト・コロニーの歴史と、森上氏の生涯であり、彼の名前を冠したこの立派な庭園ができるまでのストーリーだった。
次回は、コロニーとモリカミが誕生する、偶然のようないきさつともいえる話をしてみたい。
参考ウエブサイト
* The Morikami Museum and Japanese Gardens
*本稿は、時事的な問題や日々の話題と新書を関連づけた記事や、毎月のベストセラー、新刊の批評コラムなど新書に関する情報を掲載する連想出版 のWebマガジン「風」(2010年4月30日号)からの転載です。
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