ディスカバー・ニッケイ

https://www.discovernikkei.org/ja/journal/2024/4/12/panamedical-sistemas/

第11回 駐在員辞めて創業したパナメディカル・システマ社

第11回目はパナメディカル・システマ社の板垣勝秀社長(75、北海道)に話を聞いた。大小問わず、会社が次々とオープンしても数年で、早ければ1年も経たずして閉店しているようなことも珍しくないブラジル。「現れては消え」に驚くことはない同業社の中でも、同社は医療分野で日本の知られざる技術を発掘し、ブラジルの患者のために何が出来るかを探求して33年になる。


駐在員から一念発起

パナメディカル・システマ社の板垣代表は、明治製菓(株)の海外部門に入社して10年後、1981年に南米事務所設立の話を受けてブラジルに渡り、初代の駐在員として現地法人を設立した。日本で勤務している時にも医療機器の販売を行っていたが、薬品部門に異動となり、駐在員時代には薬品のライセンス業務を行っていた。ライセンス業務は時間がかかるため、副業で医療機器を販売するようになり、何となく自分のビジネスとしてやってみたいという思いが強くなった。

サンパウロを拠点に10年間駐在員生活を続けていたが、漠然とした独立への思いと、当時ブラジルから日本へのデカセギブームが起きていたのを見て、逆に「ブラジル人もやっているのだから、ブラジルでも起業できるだろう」との思いをかき立てられた。

一晩寝ずに依願退職するかを迷った末、上司から「起業するのは会社で役員になるよりも難しいよ」と言われてスッと心が軽くなり退社を決意した。

頭蓋底固定器


日本の当たり前がブラジルでは差別化につながる

現在、同社が日本から輸入販売するのは、脳外科の開頭手術で使用するドリルの刃、脳動脈瘤の頸部及び周囲血管の血流の遮断に使用するクリップ、分娩監視装置である。巨大な国際企業と競合する中で、高品質の製品とサービスを提供することをモットーに、「日本人移民に持たれたイメージ通り、勤勉、実直にこつこつとやり続ける事」が、すぐには認められなくても事業を継続できた秘訣であるという。

例えば、様々なトラブルやクレームが発生した時、日本ではごく当たり前の真摯にきめ細やかなサービスを提供するような業者がブラジルでは想像以上に少ない。社内では患者の命にかかわるということに重点を置いた価値観を共有し、納入業者というよりもパートナーとして、自分の家族や親戚のことと捉えて常に患者目線で判断行動していることが、顧客にも評価されて頼りにされている。

組織が大きくない分、小回りが利いて早く対応ができることや、営業社員にはブラジルで一般的なコミッション制ではなく、全てが仕事であると捉えてもらい任務に当たってもらうことで、対応の仕方が他社の営業とは異なることも事業での成果につながっている。

顧客は医師や医療機関で日系は10%ほどだが、今日まで多数の優秀な日系医師には多くの場面で助けられてきた。

USP(サンパウロ大学)と共催で日本とブラジルの脳外シンポを同社のスタッフ総出で実施した時


自然分娩の啓蒙活動セミナーが看護士の受験資格として認知

同社が取り組む事業の一つに、分娩監視モニターのセミナーの開催がある。会社設立当時、ブラジルの都市部では約90%が帝王切開での分娩が普通だったため、同社は、これまで自然分娩の啓蒙に関心を持ち、分娩監視モニターのセミナーを年間4回、延べ85回開催し、2千人以上のプロを育成してきた。

この自然分娩の普及活動が産科の関係医療機関に広く認知され、サンパウロの一流の産科に就職する看護士の受験資格にまで認知されるようになった。日本では主流の自然分娩に目を向けられるように、今後も第100回目のセミナーまで到達することを目指している。

中庭での「社内経営哲学勉強会」風景

板垣代表はこれまでブラジル経営哲学研究所(旧ブラジル盛和塾)に所属し、ブラジルでビジネス活動を行うメンバーと定期的に意見交換を行ってきた。稲盛和夫氏から他人のために尽くすことを「利他の心」として徹底して教わり、それが「大宇宙の意思」に沿う生き方であるとの言葉に魅かれ、ブラジルの医療サービス分野でその教えに則って、今後もその向上に役立ちたいと生涯現役を目指して活動を続ける。

パナメディカル・システマ社の概要
正式名称:PANAMEDICAL SISTEMAS LTDA.
所在地:
サンパウロ市
設立年月:1991年
従業員数:
20名
事業内容:
医療機器(脳外科、一般外科、産科)の輸入販売

 

*本稿は、『ブラジル日報』(2023年9月2日)からの転載です。

 

© 2024 Tomoko Oura

ブラジル 輸入業 日系企業 サンパウロ
このシリーズについて

パンデミックの厳しい環境の中でも事業を継続してきたブラジルの日系企業。コロナ禍も落ち着き始め、サステナビリティを目標とした新しい価値基準が求められる中、本連載では「ブラジルで活躍する日系企業の今」をご紹介する。ブラジル日本商工会議所協賛企画。『ブラジル日報』からの転載。

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執筆者について

1979年兵庫県生まれ、高校卒業まで神戸市で育つ。大学卒業後、2001年からブラジル・サンパウロ在住。フリーランスで現地の日本人向けマスコミを中心に取材・執筆活動ほか、編集業務に携わっている。

(2023年9月 更新)

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