第10回 イマジン・リトル東京ショートストーリー・コンテスト
毎年行われているリトル東京歴史協会主催の「イマジン・リトル東京」ショートストーリー・コンテストは、今年で第8回を迎えました。ロサンゼルスのリトル東京への認識を高めるため、新人およびベテラン作家を問わず、リトル東京やそこにいる人々を舞台とした物語を募集しました。このコンテストは成年、青少年、日本語の3部門で構成され、書き手は過去、現在、未来の設定で架空の物語を紡ぎます。2023年5月20日に行われた授賞式では、タムリン・トミタを司会とし、声優の佐古真弓、俳優のグレッグ・ワタナベ、美香条(ミカ・ジョウ)が、各部門における最優秀賞受賞作品を朗読しました。
受賞作品
- 日本語部門 — 最優秀作品: 「Color」 平山 美帆
- 佳作:「Why not? Little Tokyo!」 鏑木 洸亮
- 成年部門 — 最優秀作品: “The Last Days of The Dandy Lion” DC・パルター [英語のみ]
- 佳作: “Aftershocks” アリソン・オザワ・サンダース [英語のみ]
- 青少年部門 — 最優秀作品: “One Thousand Cranes” ジョセリン・ドーン [英語のみ]
- 佳作: “Unlocking Memories” マデリン・タック [英語のみ]
- 佳作: “Ba-chan” ゾーイ・ラードワラタウィー [英語のみ]
* その他のイマジン・リトル東京ショートストーリー・コンテストもご覧ください:
第1回 イマジン・リトル東京ショートストーリー・コンテスト (英語のみ)>>
第2回 イマジン・リトル東京ショートストーリー・コンテスト >>
第3回 イマジン・リトル東京ショートストーリー・コンテスト >>
第4回 イマジン・リトル東京ショートストーリー・コンテスト >>
第5回 イマジン・リトル東京ショートストーリー・コンテスト >>
第6回 イマジン・リトル東京ショートストーリー・コンテスト >>
第7回 イマジン・リトル東京ショートストーリー・コンテスト >>
第8回 イマジン・リトル東京ショートストーリー・コンテスト >>
第9回 イマジン・リトル東京ショートストーリー・コンテスト >>
このシリーズのストーリー
ばーちゃん
2023年6月9日 • ゾーイ・レードワラタウィ
私が小学生だった頃、東京の狭苦しいけれど快適なアパートに住んでいたのは、私と母ちゃんと母ちゃんの3人だけだった。毎朝、鍋でご飯が沸騰する音、お弁当のおかず用に野菜を切る音、お茶が入ったやかんのけたたましい音、仕事に遅れそうな母の慌ただしい足音で目が覚めた。朝食の支度をする前に、しばらく布団の中でぐずぐずしていた。学校がない平日は、母ちゃんが私をショッピングのために広場に連れて行ってくれていた。生活は少々単調で、予測可能で、周期的だったが、平和だった。ばあちゃんが広場に連れて…
Why not? Little Tokyo!
2023年6月7日 • 鏑木 洸亮
だから何度も言っているけれど、誰もが八村塁や、渡邊雄太みたいになれる訳では無い。彼らは日本人ではあるけれども、何万人に一人、いや、何十万人に一人、という才能を、幸福な環境で見事に開花させた稀有な例だ。その陰に、どれ程の実力ある選手達が埋もれていったか知れないんだぞ、と、リトル・トーキョーの人々から和尚と呼ばれている元・僧侶の男は、ここ数時間の間に同じような事を何遍も繰り返し言っていた。 仮にも、人に道を説く元・僧侶の身で、何かが無理だ、無理だと否定的な事ばかり言うのは本意…
余震
2023年6月4日 • アリソン・オザワ・サンダース
広場のレンガは朝露で湿っていて、頭上に吊るされたランタンは暗く静まり返っている。頭上の空は深い藍色のドームで、聞こえるのは遠くの高速道路の低い音、時折のゴロゴロという音だけだ。西側には、眠っている巨人のようにそびえ立つダウンタウンのビル群があり、窓は暗い。 * * * * *数マイル離れたところで、ケンジは台所のテーブルで携帯電話をスクロールしている。 「奴は捕まった。死んだ」と、妻がコーヒーの入ったマグカップを彼の横に置くと、彼は顔を上げずに言った。これが彼が今日初めて発…
記憶を解き放つ
2023年5月31日 • マデリン・サッチ
「おばあちゃん、この箱には何が入ってるの?」エミはソファーに隣に座りながらおばあちゃんに箱を手渡しながら尋ねた。 「よく分かりません」とエミのばあちゃんは木箱を彼女の手の中で回しながら答えた。そのデザインは、蓋に丸いくぼみがあり、「伝統、精神、コミュニティ」を意味する日本語の「地」が彫られているのが特徴的だった。 「どうやって開ければいいのか分からない。」エミは蓋をこじ開けようとしたが、うまくいかなかった。「見て、蓋の下に何か挟まってると思う!」エミは、物体の見える角をそっ…
ダンディライオンの最後の日々
2023年5月28日 • ディーシー・パルター
賑やかな寿司屋と明るい照明のお土産屋の上の2階にある「ザ・ダンディ・ライオン」は、見逃しやすい場所だった。階段の唯一の目印は、入り口の上に揺れる木彫りの看板だけだった。店名を囲んでいた黄色いタンポポは、ずっと前に剥がれ落ちていた。雨から中に入って、ぐらぐらする階段を上る前に傘を振った。金属の柵のドアを開けるとすぐに、京子ちゃんが「いらっしゃいませ」と挨拶した。中は、煮えたぎるスープ、豚の脂、朽ちかけた木の匂いで熱気を帯び、子供の頃の家を思い出させた。 「おい、小野君」巨大な…