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第18回(前編) 二世男子の柔道の隆盛

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前回は二世女子日本見学団についてお伝えしたが、今回はシアトルで多くの二世男子が取り組んだ1938、39年頃の柔道の隆盛についてお伝えしたい。

柔道道場の設立

文献によると、1908年2月に一般青年の柔道修業のために、シアトル市に「シアトル道場」が設立された。開設当時の会員数は20名程度に過ぎなかったが、1928年頃には二世男子の柔道修得者が増加し、成年者85名、幼年者125名の、計256名となった。道場はこの頃ジャクソン街824番にあった。

1932年には講道館長の嘉納治五郎氏がシアトルを訪れ「シアトル柔道有段者会」が組織された。シアトル市には更に「天徳館道場」もでき、シアトル市周辺のオレゴン州やカナダ州など「シアトル道場」を本部として周辺地区18カ所に道場ができ、1940年頃には会員数は約1000名に達した。

柔道大会の開催

シアトルでは1938年頃大きな柔道大会が3つあった。それは「シアトル有段者会主催柔道大会」、「天徳会主催柔道大会」そしてシアトル地区から選抜された柔道チームとロサンゼルス周辺のチームとの「南北対抗柔道試合」だった。これらの柔道大会に関する記事1について紹介したい。 

①  シアトル有段者会主催柔道大会

シアトル有段者会主催柔道大会はシアトルで行われ、シアトル周辺地区の他道場も参加して大々的に行われた。その大会の様子を掲載した記事があった。

「第2回シアトル有段者会主催柔道大会」(1938年1月22日号)

「シアトル有段者会主催第2回柔道大会は明日曜日正午より日本館ホールで開催される。ベルビュー、ベンブリッジ、グリンレーキ、ケント、タコマ、ファイフ、シアトル、サニデール、天徳館、ワバド、白河の11道場が参加。優勝旗争奪戦、個人選手権試合、幼年組優勝試合を行ふが百十数名の選士が出場、白熱戦を演ずる筈」

「第4回有段者会主催柔道大会」(1939年11日30 日号)

「シアトル柔道有段者会主催、第4回柔道大会は参加道場12道場(ベンブリッジ、ベルビュー、ファイフ、グリンレーキ、イートンビル、ケント、シアトル、天徳館、サニデール、タコマ,ワバド)300数10余名の選士で、青年組優勝旗争奪戦、幼年組優勝試合、個人選手権試合、年齢別選手権試合の四大部門に分かれた大熱戦が演じられるが初日は午後6時より、二日目は正午より開始される。

初日は宮沢保太郎氏の司会で始まり年齢別選手権試合が行われる。出場者は左の如し(9歳から18歳の出場者名掲載)二日目は幼年組優勝試合。(出場者は地区別に掲載)優勝旗争奪戦。(出場者掲載)最後に個人選手権試合が行はれる」

『北米時事』1939年11月30日

「明晩から柔道大会」(1939年12月1日号)

「有段者主催の柔道大会は愈々明土曜日より豪華な幕を切って落とすが二日目の、日商寄贈優勝旗争奪大試合に続いて行われる個人選手権試合は。大会の最後を飾る大熱戦であるが出場者は左の如し。(三段、二段、初段別に氏名掲載) 」

二段の出場者名の中に吉田とあり、『ジム・吉田の二つの祖国』の主人公のジム・ヨシダと推察される。本書によるとジム・ヨシダは1921年7月28日生まれなので、この記事は18歳頃と思われる。

「有段者会柔道大会の結果」(1939年12月4日号)

「優勝旗争奪戦では、シアトル道場が31点で優勝した。又この柔道大会の個人選手権試合の結果は坂上三段が優勝しワシントン、オレゴン両州の選手権を獲得した」


② 
天徳館主催柔道大会

「天徳館父兄会役員」(1938年2月7日号)

「天徳館父兄会今年度役員は左の如し会長、寄田寿之介 副会長、田妻文四郎 幹事、川船和夫 同、有武太郎 同、岩井栄四郎 会計、百田柳三郎 評議員、吉田龍之輔他26名」

評議員の吉田龍之輔はジム・ヨシダの父親である。

 「天徳館主催で日曜に柔道大会」(1938年2月26日号)

「天徳館創立十周年記念柔道大会は明日曜日正午、日本館にて開会されシアトル、タコマ、ファイフ、白河、ベンブリッジ島,ポートランド央武館、グリーンレーキ、ワバト、ケント、ベルビュー、サニデール、天徳館の12道場参加。

浜氏の司会にて前野、有馬両氏の祝辞(有馬氏は所用ありて出席できず)坂田氏の挨拶があり、幼年少年組一本勝負、幼少年組紅白勝負、青年組一本勝負、有段者一本勝負、青年組紅白勝負が行われるが、過日初段への昇進者があったため有段者一本勝負の組合せは左の如く変更された。(一本勝負の出場者の組合せの氏名掲載)」

『北米時事』1938年2月26日

この組合せの中に吉田初段(ジム・ヨシダ)の名前があった。

1938年2月28日号の記事(「天徳館柔道大会」)では、天徳館主催柔道大会の詳細な結果が発表された。天徳館の吉田初段は有段者一本勝負に出場したが、シアトル道場の加藤初段に敗退していた。


③ 
南北対抗柔道試合

文献によると南北柔道対抗試合は、米国における最大の対抗試合としてその界の注目を浴び、その道の発展に多大の効果を挙げた。

「西北部の柔道選士は来る26日出発」(1939年2月13日号)

「第3回南北対抗柔道大会は愈々3月4、5日の両日、ロサンゼルスに於て開催されるので、西北部の有段者26名は来る26日、6台の自動車に分乗、当地を出発する一行はポートランド市経由、メドフォードに一泊、更にサクラメントに一泊して28日夕刻にはロサンゼルスに乗り込む予定である。帰途は金門大橋を見物するので選士一同は今から出発の日を待ち焦がれて連日猛稽古を重ねてゐる」

「南北対抗柔道試合一勝一敗の戦績」(1939年3月6日号)

「第3回南北対抗柔道試合は去る4、5日の両日、常夏のロサンゼルスで盛大に挙行され、大熱戦を演じ初日は七勝十二敗で敗れたが二日目は遠征軍が大勝した。第一日の結果は左の如し」(出場選士の名前と結果が記載)

『北米時事』1939年3月6日

出場選士の中に吉田克己(かつみ)はジム・ヨシダの日本人名で、第1日目は負けだったが、2日目には勝利した模様。

「柔道選士今夕帰沙(シアトル)」(1939年3月11日号)

「南加に遠征してロサンゼルスの強豪を相手に、好成績を収め帰途。サンフランシスコ万博を見物、同地柔道関係者の歓迎を受けた柔道選士一行は今夕9時帰沙の予定であり、着沙後直ちに日光楼にて解散式挙行する事になった。一般同胞の出席を歓迎する」

 「慰労会」(1939年3月22日号)

「シアトル道場では来る24日午後9時道場にて南加遠征選士慰労と過般の南北対抗柔道大会慰労会で、父兄、道場員の出席を望んでいる」

 このように南北対抗柔道試合はシアトル在住日本人にとって大変興味ある大会として注目を浴び、代表選手に大声援を送り健闘を讃えた。

続く >>

(*記事からの抜粋は、原文からの要約、旧字体から新字体への変更を含む)

注釈:

1.特別な記載がない限り、すべて『北米時事』からの引用。

 

*本稿は、『北米報知』に2022年9月27日に掲載されたものに加筆・修正を加えたものです。

 

© 2022 Ikuo Shinmasu

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このシリーズについて

北米報知財団とワシントン大学スザロ図書館による共同プロジェクトで行われた『北米時事』のオンライン・アーカイブから古記事を調査し、戦前のシアトル日系移民コミュニティーの歴史を探る連載。このシリーズの英語版は、『北米報知』とディスカバーニッケイとの共同発行記事になります。

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『北米時事』について 

鹿児島県出身の隈元清を発行人として、1902年9月1日創刊。最盛期にはポートランド、ロサンゼルス、サンフランシスコ、スポケーン、バンクーバー、東京に通信員を持ち、約9千部を日刊発行していた。日米開戦を受けて、当時の発行人だった有馬純雄がFBI検挙され、日系人強制収容が始まった1942年3月14日に廃刊。終戦後、本紙『北米報知』として再生した。

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執筆者について

山口県上関町出身。1974年に神戸所在の帝国酸素株式会社(現在の日本エア・リキード合同会社)に入社し、2015年定年退職。その後、日本大学通信教育部の史学専攻で祖父のシアトル移民について研究。卒業論文の一部を日英両言語で北米報知とディスカバーニッケイで「新舛與右衛門― 祖父が生きたシアトル」として連載した。神奈川県逗子市に妻、長男と暮らす。

(2021年8月 更新)

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